845人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
ふたりの前歯がぶつかって、がちんと鈍い音がする。
「いた」
つい呟くと、桜井が悠斗の上唇を指でめくり、前歯と歯茎をひと舐めした。
背中の肌が粟だった。
「先輩先輩って懐いてきて、笑顔を振りまいてきて――可愛くて、かわいくて」
桜井が舌を尖らせ、悠斗の上唇をそっとなぞる。
「好きにならないように頑張ったけど、無理だった」
「無理だった」
オウム返しになる。頭がぼうっとしている。もっと舌を。
「好きだ」
桜井にぎゅっと抱きしめられて、血の巡りが急に良くなる。全身が、温かい、を通り越して、熱くなる。
「俺のこと、抱きたい?」
寒くなくなったはずなのに、声が震える。
「抱きたい」
桜井の声もすこし震えているから、悠斗は安心する。
「じゃあ、抱いて」
桜井の吐息を、全身で感じたいと思った。
最初のコメントを投稿しよう!