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絶縁
懐かしい夢を見た。珍しく悪夢ではない、夢。
「さっき先輩に会ったからかな」
悠斗はあのころ、桜井とふたりきりのときだけ、タメ口をきいていた。ふたりだけの秘密を共有しているみたいで、嬉しかった。桜井は怒らなかったから。
悠斗は玄関の上がり框で寝入っていた。
靴は辛うじて脱いでいたが、コートは着込んだままだった。
時計を見ると、十七時二十分になっている。今のところ、予定通りに眠れている。
手洗いとうがいを済ませて台所に行き、米を研いで炊飯器にセットした。もうすぐ母親が仕事から帰って来る。彼女は長年パートとして事務職に就いていたが、悠斗が高校に入ったころ、上司に頼んで正社員にしてもらっていた。
――俺が私立の高校に行ったからなあ。
そして今度は、私立の大学に通う。この家から大学まで電車で一時間半かかる。通学が辛いようだったら、一人暮らしをしても良いと言われている。仕送りもするからと。でも、そこまで頼るのは気が引ける。中学からずっと経済的に負担をかけてきた。
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