868人が本棚に入れています
本棚に追加
心なしか、桜井の表情がぎこちなく揺れた。心配してくれているのだろうか。首筋がこそばゆくなる。
「ぼうっとしてるのは元からですよ」
「そうだっけ? 前はもっと、元気で――」
桜井が途中で言葉を切り、口をつぐんだ。
――やっぱり、前の俺のほうが良いんだろうな。
悠斗は自分のテンションが徐々に下がっていくのを感じた。病気を自覚するまでは、もっと明るかった。はきはきと言いたいことを言えていた気がする。なにより、時間に拘束されることがなかった。自由だったのだ。体も心も。
「俺、ナルコレプシーっていう病気なんです。所かまわず寝ちゃったり、さっきみたいに突然脱力して体が動かなくなったり」
「ああ、さっきはびっくりした。声をあげて急にがくって倒れたから」
「初めて見る人はショックみたいですね。道端で倒れることもあるんですけど、たまに救急車を呼んじゃう人がいるんですよ」
親切な行動だとは思うが、悠斗にとっては有難迷惑なのだ。救急車が到着したときにはとっくに発作が終わっている。駆けつけてくれた救急隊員に謝ったことが二度ある。
「先輩は、どこの大学に行ってるんですか」
話題を変えたくなって、悠斗は桜井に質問することにした。彼のことなら何でも知りたいと思った。
「W大の建築学科」
「――すごいっすね」
最初のコメントを投稿しよう!