桜井真人

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 そう答えたものの、悠斗は確信していた。あの受験の日が、記念すべきナルコレプシー発症の一日目だったのだと。だが、それが何だと言うのだろう。理由はどうあれ、悠斗はS校の受験に失敗し、すでに受かっていた滑り止めの、家から徒歩二十分の私立高校に入学した。そしてこの三年間、桜井には一度も会っていなかった。今日偶然、地元のファミレスで再会した。その事実は変わらない。  いつの間にか、ふたりは悠斗の自宅に着いていた。周りは築年数の浅い、洋風の一軒家ばかりなのに、悠斗の家は築四十年の木造家屋だった。星野家の前を通った幼児が「のび太の家だ」と騒いだことがある。 「送ってくれてありがとうございます」  悠斗はぺこりとお辞儀をして、改めて桜井の顔を見上げた。三年前は視線の高さが同じだったのに。黒目勝ちの、険のない目に見下ろされ、また、昔みたいに遊んでくださいよ――そう言いたくなった。だが、喉が詰まって言葉が出てこない。なんでこんなに、緊張するのだろうか。 「あのさ――」  桜井が、気分を変えるように明るい声を出した。彼の頬が、冷たい空気に晒されているせいで赤みを帯びている。 「さっきのバスケコートで、たまにバイトの連中とバスケやってるんだ。人数が集まったときは試合っぽいこともしてる。星野もやらない?」  思いがけないことを言われ、悠斗の胸は高鳴った。でも、素直に「はい」と言えない自分がいる。 「え、でも、俺は部外者だし」 「大丈夫。店の客が飛び入りで参加したこともあるから。星野と同学年のバイトもいるからさ、楽しいと思う」     
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