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お先に、と鈴木に声をかけ、割り箸を割った。そのとき、悠斗たちのテーブルに男の店員がやってきた。
「お待たせしました。チキンカレーです」
店員の声に、赤ん坊の泣き声が重なった。キッチンのほうから重ねた皿を叩きつけるような雑音が聞こえ、そのあと「失礼しました」と、店員の威勢の良い声が響いた。騒がしい。
鈴木がテーブルから少しだけ体を離した。店員が無駄のない動きでカレーを配膳する。嬉しそうに顔を崩した鈴木が、テーブルの真ん中に置かれたカトラリーからスプーンを掴み取った。悠斗の隣からは香辛料とバターの混じった贅沢な匂いが漂ってきて、カレーを頼んでもよかったな、と思った。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
はじめて店員の声がクリアに聞こえた。その声に、聞き覚えがある気がした。少し低めの通る声。聞き取りやすくて、話をしていても聞き返すことなんて一度もなくて。悠斗はまさかと思いつつ、首を持ち上げ、テーブル脇に立つ店員の顔に視線を向けた。ちょうど彼もこちらを見ていた。目が合った。
「――あ!」
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