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卒業式
悠斗が体育館のドアを開けると、思った通り、捜し人はそこにいた。桜井がバスケットリングから落ちたボールを拾っていた。
「お、来たか」
彼がこちらを振り向いた。悠斗が来ることを予測していたような口ぶりだ。
桜井が、掴んでいたバスケットボールを投げてくる。悠斗は両手で受け取った。
「先輩、みんな待ってるよ。写真を撮りたいって。花束も」
「星野、スリーポイントやってみ?」
おいでおいでと、手招きされる。悠斗は仕方なく、靴を脱いで中に入り、スリーポイントラインまで歩いた。一番シュートが決まりやすい右サイドに立ち、ひとつ深呼吸をしてから、バスケットリングを真っすぐに見据える。足を軽く広げ、顎を引いて、体幹を意識した。体をまっすぐにして、ボールを頭上で構える。腕にも手にも無駄な力は入れない。右手の指でボールを支え、左手は添える程度に。弓を引き絞るように足を曲げ、伸ばした。自分の体が、一本のばねになる瞬間が好きだ。手を離れたボールが、綺麗な放物線を描いて、リングの網を通過した。
隣で見ていた桜井に、ぱちぱちと控えめな拍手をされ、悠斗は小さく「どうも」と言った。
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