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スリーポイントラインからの、セットシュート。レイアップシュートの次に得意なシュートだった。
「最後に見れて良かった。俺、スリーポイント投げるときのおまえのフォーム、好きだったよ」
まるで、今日で会うのが最後みたいなことを言う。会おうと思えばまた会えるのに。悠斗と桜井は、お互いの連絡先を知っている。携帯の番号も、メールアドレスも。
「背筋をピンと伸ばして、まっすぐにリングだけ見てさ。凛とした佇まいで――いつもはふざけてばっかで、うるさいのに、おまえ」
「先輩」
「懐き過ぎて、ちょっと鬱陶しかった」
ふいに、桜井が腕を伸ばしてくる。彼の長い指が悠斗の頭に触れた。
「ついてる」
「え」
「桜」
すぐに指が離れていく。薄いピンク色の花弁が一枚、ひらひらと舞って、薄茶色の床に落ちた。悠斗は視線を床に落としたまま、先輩、と呟いた。悠斗のことを鬱陶しいと言いながら、桜井はこういう優しい接触をしてくるのだ。
桜井の姿を校内で見かけるたび、悠斗は彼に声をかけた。近くにいても、遠くにいても。時間があれば駆け寄って、話したいことを話した。
――先輩先輩ってうるさいな。おまえ、馴れ馴れしすぎ。
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