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桜井は苦笑しながら悠斗をたしなめた。悠斗たちが通う中学は、先輩後輩の上下関係が厳しく、とくに体育会系の部活ではそれが顕著だった。
でも、いつも桜井は、笑いながら悠斗を甘やかしてくれたから。そこまで嫌じゃなかったのではないか、と悠斗は己惚れていた。悠斗は知っていた。桜井は一見、人当たりが良いが、その実、誰にでも優しいわけではないということを。本当に馴れ馴れしいと思っていたのなら、桜井は容赦なく悠斗のことを無視していただろう。――だから。
「先輩、スリーポイント入ったんだから、俺のお願いきいてよ」
「なに?」
桜井が疲れたように肩をまわして苦笑した。
「卒業しても、たまには俺とバスケしよう?」
「やだよ」
にべもなく断られる。悠斗は泣きたい気分になった。
「なんで」
「忙しくなる予定だから。部活に勉強に――彼女もできるだろうし」
「そ――そうかもしれないけど、そこをなんとか」
桜井は女子にモテていた。卒業式の今日、ブレザーのボタンが全部なくなるぐらいには。ルックスが良いし、文武両道だし、当たり前といえば当たり前だった。
「俺と同じ高校に入ればいいじゃん」
「え」
「おまえがS校に来いよ」
――無理だ。
即座にそう思った。自分の成績ではとてもじゃないが、S校を志望校に掲げる学力はなかった。狙える高校は、S校の何ランクも下の学校だった。
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