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『試験中に寝てたんだってな。そんなんじゃ受かるものも受かんないよな。本当はS校に来るのが嫌だった? わざと落ちたんじゃないの』
試験中の居眠りを、桜井に知られていた。
そういえば、後ろの席に座っていた受験者も同じ中学の生徒だった。顔までは覚えていないが。彼以外にも同じ中学の人間が何人もあの会場にいた。だが、そんなことよりも――
――わざとってなんだよ。そんなわけないだろ。
額がカッと熱くなったが、それも一瞬だった。胸がずくずくと痛みだす。
桜井が中学を卒業してからの一年間、県下一の公立高校に受かるために、死ぬ思いで勉強したのだ。S校に入って、また桜井とバスケをしたかったからだ。そのためだけに、S校を目指したのに。
『わざと落ちるわけないじゃないですか』
一文だけの反論メールを送ると、すぐに返信が来る。
『わざとでもそうじゃなくても、どっちでもいい。高校も違うし、もう会うこともない』
読んだ瞬間、体が震えた。もう会うこともない。その言葉に打撃を受け、母親に夕飯で呼ばれるまで、悠斗は放心状態に陥っていた。
受験を失敗したことよりも、二度と桜井に会えないことのほうがショックだった。
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