絶縁

4/5
前へ
/110ページ
次へ
『試験中に寝てたんだってな。そんなんじゃ受かるものも受かんないよな。本当はS校に来るのが嫌だった? わざと落ちたんじゃないの』  試験中の居眠りを、桜井に知られていた。  そういえば、後ろの席に座っていた受験者も同じ中学の生徒だった。顔までは覚えていないが。彼以外にも同じ中学の人間が何人もあの会場にいた。だが、そんなことよりも――  ――わざとってなんだよ。そんなわけないだろ。  額がカッと熱くなったが、それも一瞬だった。胸がずくずくと痛みだす。  桜井が中学を卒業してからの一年間、県下一の公立高校に受かるために、死ぬ思いで勉強したのだ。S校に入って、また桜井とバスケをしたかったからだ。そのためだけに、S校を目指したのに。 『わざと落ちるわけないじゃないですか』  一文だけの反論メールを送ると、すぐに返信が来る。 『わざとでもそうじゃなくても、どっちでもいい。高校も違うし、もう会うこともない』  読んだ瞬間、体が震えた。もう会うこともない。その言葉に打撃を受け、母親に夕飯で呼ばれるまで、悠斗は放心状態に陥っていた。  受験を失敗したことよりも、二度と桜井に会えないことのほうがショックだった。     
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

868人が本棚に入れています
本棚に追加