バスケ

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バスケ

「だから、なんで中学の夢ばっかり」  思わず悠斗は、独り言を言った。今回は嫌な夢だった。不可抗力の睡眠発作、空欄の解答用紙、桜井からの絶縁メール。どれも忘れたいのに忘れられない、トラウマと化した記憶だった。リアリティがあるだけに、始末が悪い。  机に置かれた目覚まし時計を見ると、時刻は十九時半。ギシギシと木の床が圧迫される音と、パタパタとスリッパの擦れる音が近づき、自室の前で止まった。 「悠斗、ご飯よ」  部屋のドアをノックしながら、母親が声をかけてくる。 「ありがとう。今行く」  夕飯は、いつもと同じ十九時半。食べ終わったらお腹休めをして風呂に入る。二十二時には就寝。決まった通りに行動する。面倒だけど、睡眠間隔がずれるよりはマシだ。  食卓に着くと、母親が料理ではなく、薄いパンフレットを渡してきた。 「大学の近くにある寮のパンフレットなんだけど、読んでみて」 「寮?」 『山田学生会館』と表紙に銘打った冊子をぱらぱらと捲る。 「ここから、M大に通うの、やっぱり大変だと思うのよ。一人暮らしでもいいと思うけど、料理とか、難しいでしょ? 外食ってなるとお金がかかるし」     
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