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小さく叫んだ瞬間、悠斗の体から力が抜けた。箸を握っている指が弛緩した。あっという間に箸はハンバーグの上に落ちデミグラスソースがテーブルに飛び散った。腕が垂れさがり右肩が壁にぶつかる。首ががくっと下がり頭を支えられなくなる。項垂れた姿勢になり、数回左右に上半身が揺れた。脱力した瞼が眼球を覆い、視界は一面薄墨色になる。
「星野?」
いち早く声をかけてくれたのは、鈴木でも葉山でもなかった。慌てているのか声が上擦っている。もう一度名前を呼ばれ、心のなかで「大丈夫です」と返事をする。顔を上げることができない。体が自由になったら、なんと言葉をかけようか。三年ぶりに会った先輩――桜井真人(さくらいまさと)に。
「あ、こいつは大丈夫ですよ。たまにこういう風になるんで。ていうか、星野のこと知ってるんですか」
のんびりとした鈴木の声が聞こえてくる。鈴木も葉山も悠斗の発作には慣れている。動じることもない。
「星野くんとは中学が同じだったんです。彼は今――気絶しているんですか?」
「いえ、意識はちゃんとありますよ。俺たちの話も聞こえてるし。動けないだけで」
さっきから鈴木ばかりが桜井の質問に答えている。麺をすする音が聞こえるから、葉山は担々麺に夢中なのだろう。
「病気ですか? てんかんとか」
「違います。ナルコレプシーっていう病気なんです」
自分のことが話題になっているというのに、会話に入れないのがもどかしい。
――早く動けよ。
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