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悠斗が自炊をしないこと前提で話が進む。それも仕方がないと思った。悠斗は一度、料理で失敗していた。テレビを付けながら、ガスキッチンで目玉焼きを焼いていたときに、思いがけずに爆笑してしまったのだ。番組がいけなかった。芸人の一発芸が面白すぎた。鼻の穴からうどんが出るとか、笑わないほうがどうかしている。脱力発作が起こり、握っていたフライパンに体重がかかって、バランスを崩した。フライパンもろとも、悠斗は床に倒れた。フライパンはあさっての方向に滑ったが、じゅわじゅわと熱い湯気を立てた目玉焼きが飛び跳ねて、すでに座り込んでいた悠斗の足首に張り付いた。運悪く裸足だったのだ。大きな物音で、母親が台所に駆けつけてきた。悠斗が一部始終を説明すると、母親はその事実を重く受け止めた。これが揚げ物をやっているときだったら、と青ざめた。
――悠斗、あんたおかしいわよ。
高校に入って半年が経ったころから、こういった情動脱力発作が起こるようになり、初めて悠斗は自分の体がおかしいということに思い至った。急な居眠りは、S校受験をきっかけに始まっていたが、「この年頃って眠いもんね」の一言で、悠斗自身も周りも軽く流していたのだ。クラスメイトからは「眠り王子」と綽名をつけられ、先生にはよく、授業中に居眠りをして怒られていたが、起こされればすぐに起きていた。
専門医療機関で検査を受け、悠斗がナルコレプシーと診断されたのは、高校一年の冬休みだった。
「ね、悠斗、聞いてる?」
「あ、うん。寮もいいかもね」
「あんたって――ほんと、変わったわね。前はうるさいぐらい元気だったのに。やっぱりいつも眠たいの? 悠斗に合う薬が出るといいんだけどね」
悠斗は並べられた夕飯に箸をつけた。
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