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己の体に向かって、悠斗は苛つきながら命令した。ずっと会いたいと思っていた人が目の前にいるというのに、体はびくともしないし声も出ない。――でももう少しだ。あと少しで回復する。この発作はそう長く続かないということを、今までの経験でわかっていた。
ピンポーンと、店員を呼ぶチャイムが連続して鳴った。
「あ、本当にこいつは平気ですから」
「鈴木、ハンバーグのソース、ワイシャツについてるよ」
「それではまたあとで、見に来ます」
「ま――まっれ――」
他のテーブルに行ってしまう。そう察知した瞬間、衝動的に桜井のことを呼び止めていた。なんとか声が出たものの、発作の名残で呂律が回らない。悠斗は、パワーオンの状態に切り替わった体をさっそく動かした。よろめきながらも立ち上がり、驚いたように瞠目する桜井に、笑いかけた。
「先輩、お久しぶりです」
呂律は正常に戻っている。悠斗はほっとして話を続けた。
「S校、落ちてすみません。ごめんなさい。試験のときに寝ちゃったのは本当です。すみません。俺」
「星野、ストップ」
鈴木が制止の声をあげた。悠斗は反射的に舌を止めた。
「店員さんが困ってるじゃん」
今度は葉山にたしなめられる。
「あ――」
たしかに、桜井の顔が強張っているように見える。
「すみません」
悠斗が謝ると、桜井は参ったな――という風に短髪の頭を掻いた。その仕草は、中学の頃から変わっていない。悠斗の胸に温かい雫が滴る。
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