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「大丈夫じゃねえよ。足を狙えって言っただろ」
怒った風でもなく、淡々とした声で桜井が答えてくる。
「すみません!」
一応謝ったものの、バスケの選手なんだからこれぐらい避けられるはず、俊敏さが欠けている、と桜井に対してダメ出しをしていた。心の中だけでだが。
「ほんとすみませ――」
桜井が、顔にめり込んだボールを取り外した。スポンと可愛い音がした。ボールが床に落ち、エンドラインの白い線をなぞるようにして転がり続ける。
「ん?」
悠斗は声を漏らした。ボールが通り過ぎた白線に赤い筋が付いている。とっさに、桜井の顔に視線を戻した。悠斗は口に手を置いて絶句した。
桜井の顔からは、面の皮が捲れ落ち、首の上には顔の輪郭を保ったむき出しの筋肉と、目玉だけが残されていた。生々しい肉の塊のなかに、ふたつの目玉が配置されている。それらは強調されてギラギラと輝いていた。目の周りには、くっきりとした眼輪筋が浮き出ている。グロテスクな様相なのに、悠斗は怖いと思わなかった。ああ、面の皮がなくとも先輩は先輩だ、と感じていた。
「桜井先輩って、相変わらずイケメンっすね」
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