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自分の口からすっとぼけた科白が出たと同時に、あれ? と首を傾げた。今の自分の声にはエコーがかかっていない。
「それは、どうもありがと」
近くで桜井の声がした。悠斗ははじかれたように顔を上げ、瞼をこじ開けた。パツっと、睫毛の動く音が聞こえた。体育館の古い木の匂いが、まだ鼻孔に残っている気がする。
視界に、私服姿の桜井が入ってくる。彼は、向かい側の椅子に座っていた。正面ではなく斜めの席に。
悠斗は、三年前と今の桜井の違いをこっそり探した。中学のころは長めだった髪の毛が、今では短く切りそろえてあり、コシのある黒髪からはピンと立った形の良い耳が顔を出している。眉は太めだが、決して悪目立ちするタイプのものではない。垂れ目でもつり目でもない黒目勝ちの瞳は、初対面でも話しかけやすい雰囲気を醸し出している。頬や顎の輪郭は丸みが消えシャープになっている。凛々しくて大人っぽい。中学のころの面影はもちろんあるが、だいぶ男らしさが増した気がする。背も高くなっているし、スリムだけど筋肉はしっかりついている体型で、女性受けするだろうな、と思わせられる。欠点がなかなか見つからない。相変わらず、じゃない。中学のころよりずっと格好良くなっている。
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