寝ていたら起こして

8/9
660人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
 鈴木との通話を終えたあとも、悠斗はその場で佇んでいた。 「本まで……借りてくれてたんだ」  桜井が、本まで。  調べてくれたんだな、と思ったことはあった。でも、ネットで調べたんだろう、程度にしか考えなかった。  ――俺は先輩の気持ち、知ろうとしてなかった。知る努力していなかった。  どうせ付き合っても、いつか必ずダメになる。そんな不安が心の底に燻っていた。 「だって、仕方ないじゃんか」  この数年、体が弛緩するたびに心は強張っていった。発作にがんじがらめにされて、動けなくなっていった。  桜井のことを好きになればなるほど、破局する未来を想像してしまう。好きだからお互い気を使って、気を使いすぎて、本来の自分をさらけ出せなくなって、疲れていく。お互いが疲れる存在になる。そうなるのが怖かった。――でも。 「先輩に会いたい」  本音を口にしたとたん、涙があふれた。 「先輩に謝りたい。話したい。デートしたい。一緒にカーテン買に行きたい。キスしたい。エッチしたい」  願望を口にしていくと、ふわあっと、心が持ち上がっていく。マイナス思考が霧散していく。破局する未来なんて決まっていない。そう思い込んでいただけなのだ。諦めの良い振りをしていただけだ。本当は自分が傷つくのが怖かっただけだ。  悠斗はPHSで、桜井に電話をかけた。ワンコールで繋がる。 「先輩、俺、先輩のうちに戻るから、待ってて!」  桜井の返事を待たずに電話を切った。  抑え込んでいた感情の波が溢れだす。怖い。だけど嬉しい、楽しい、世界が輝いて見えて、胸が熱くなる。  さっきまで準備中になっていた目の前のレストランが、営業を開始していた。  悠斗はああそうだ、と思い出した。桜井と、お昼を食べに行く約束をしていた。 「お腹すいた!」  悠斗は来た道を戻る。走る。 
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!