12月31日 午前八時 桜井視点

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12月31日 午前八時 桜井視点

 なんの脈絡もなく勝手に瞼が開いた。眠気を一切引きずることなく真人は覚醒する。最近はこんな起き方が多い。夢を見ていたような気がするが、内容をまったく覚えていない。  ベッドに仰向けになった状態で、窓際を眺める。カーテンから漏れる陽の光の明るさで、だいたい何時か予想がつく。八時を過ぎたころだろう。  ――このカーテン、悠斗と買いに行ったんだよな。  ほぼ三年前に購入した薄いグレーのカーテンは、何回か洗濯をしているが、薄汚れた感じがぬぐえない。次の引っ越しのときには持って行かないだろう。  真人は隣で眠る恋人を起さないように気をつけて、ベッドから下りた。窓際に行き、カーテンを静かに開ける。眼前には、同じ二階建てのアパートが並んでいる。洗濯物を干している部屋がいくつもある。視線を上に転じれば、水色の水彩絵の具を塗り尽したような雲ひとつない空が広がっている。今日は晴れだ。  真人は部屋から出てキッチンに向かった。悠斗が泊っているときは、早めに起きて朝食の準備をする。パジャマ姿のまま、真人はキッチンに立った。     
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