第3章 親になっても愛し合いたい

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寿司を頂きながら、どういう家にしたいのか積極的に話してくれたおかげで大まかなイメージがつかめてきた。紙とえんぴつを借りて、その場でざっくりとしたイメージ画をおこしていくと、校長先生の目が輝き出した。 久しぶりに仕事をしている・・・気がしてくる。 学校の美術教師という仕事とは全然違う、クリエイティブで人の人生に大きく貢献する空間づくりという仕事を俺は楽しんでやっていたことを思い出す・・・。 同じスペースでも目的や機能性を持ち込んでゼロからスタートする。人生の中で1回や2回しか経験しない居住空間を自分好みに作るという楽しさを感じて欲しい、というかつての仕事への情熱がむくむくと蘇ってくる。 校長先生は奥さんを呼び寄せて、キッチンや風呂や脱衣所、トイレの希望をなんでもいいから言ってごらんと提案した。自分はこういうことに疎いと言いながらも、今のトイレは狭すぎるからもう少しゆったりしたいとか、お風呂の湯船は足が延ばせるぐらいに広げたいとか、洗濯物を日当たりのいい場所に干したいが階段はもういらないとか、そんな要望が次々に飛び出してきた。 予算との兼ね合いもあるから、工務店の人と資材や工賃の確認をしないと見積もりは作れない。俺が知る東京の相場とは違うだろうし、こっちは寒暖差が激しくて年中ドライな空気だから選べる素材だって違うだろう。色々と勉強しなおさないといけない・・・。 でも、楽しい。 あまりの楽しさに時間を忘れて、気付いたら三時半になっていた。 「思った以上に仕事が早そうだねぇ。天職はこっちなんじゃないのかなぁ、やっぱり」 夏鈴も言葉少ないが、ニマニマと可愛い微笑みを絶やすことなく俺達のやりとりに黙って付き合ってくれていた。 「じゃあ、近々。建設会社と打ち合わせで男だけでのみに行きましょうか」と嬉しそうに誘ってもらい、俺達は校長先生の自宅を去った。
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