第3章 親になっても愛し合いたい

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なんだってしてくれるっていうなら・・・ 「夏鈴。俺の好きなところ、教えて」 33歳にもなって、俺は何を言ってるんだろう? 嗚呼、でも。今はなぜかわからんが、俺は少し不安なんだ。 人生の分かれ道にやってきて、どっちに進むべきか考えだす以前に躊躇してしまうのは、自信のなさから来ているんだろう。 俺は夏鈴なしだと、自分に嫌悪するだけのちっちゃくてつまらない男になっちまう。 ふと、父さんの背中を思い出した。 小学生の頃、父さんとよく漁村の小さな港で波止釣りをした。 防波堤に座って、飛んでくるウミネコの声をBGMに、磯臭い海辺でカレイや遡上するために戻ってきた鮭を釣ろうと奮闘した時の記憶がよみがえってきた。 父さんは釣りが好きな人だった。 母さんが仕事でいない週末が多くて、いつも俺を退屈させないようにと釣りとか登山とかバードウォッチングに連れ出してくれた父さん。 俺はあのころの父さんが好きだった。滅多に怒らないし、物静かで黙々と家事をする後姿が俺は好きだった。父さんの甘すぎる卵焼きも、定番の即席ラーメンに大量ももやしとわかめを投入した昼食も、柔らかめに炊かれた炊き立てご飯にバターとしょうゆを勝手にかけちゃう優しさも・・・。 素朴だけど、いつもそこにいてくれる安心感が・・・。結婚したら、そんな父親になるのも良いって思ったり、母さんに頼りないって思われる情けない父さんのようにはなりたくないと思ったり・・・。
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