第3章 親になっても愛し合いたい

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父さんは俺の手をぎゅっと握りしめたと思ったスゥーッと消えて行った。 「・・・言いたいことだけ言って消えた・・・」 呆然としてしまった。 はっと我に返ると、夏鈴が俺のすぐ横で倒れていた。 驚いて抱き上げると、シーツを巻きつけた途端に気絶したようだった。 温かい身体、美しい寝顔に涙の筋が余計に美しさを強調しているようだ。 リゾートホテルで体験したようへいさんの時と同じだ。 俺は、夏鈴の唇にそっとキスをした。 俺のために何度もこんな機会を与えてくれる不思議な能力に、心の底から感謝の念が沸き上がってくる。 俺の中で父さんのイメージがひっくり返った。 内に籠って思ったことを言えない男というイメージが、今はもうなくなっている。 あるのは、海のように広い心と強い家族への愛情。 波止釣りの時に父さんが言っていた言葉が蘇ってきた。 「俺が尊敬する人は俺の親父だ。父親っていうのは、家族にとって防波堤のような存在だって教えてくれたんだ。どんな大きな荒波が押し寄せてきても家族を守る。その強い気持ちが芯になれば、男は男になれるってな」
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