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「愛してるわ」
「一馬、さん」
アタシは、妙子を強く抱きしめた。
★
北海道の三月は、まだまだ寒い。アタシは積もった雪に、ぐさりとシャベルを突き刺した。空気がぬるくなったと思いきや、大雪が降る。そしてまた暖かさが訪れ、雪崩が起きるのだ。全く、勘弁してほしい。
まだ日が昇ったばかりの時刻で、あたりは静かだ。一息ついていたら、妙子が姿を現した。
「私も手伝います」
「いいわよ、アンタは餌やりして」
「でも……一馬さんはもう20代後半ですから」
寄った眉がなんだか腹立たしい。
「喧嘩売ってるわけ」
「純粋に心配してるんですよ」
「あっそう。それはありがとう」
アタシは妙子にシャベルを差し出した。妙子は嬉しそうにシャベルを掴み、ざくざくと雪をかく。彼女が左指につけた結婚指輪が、朝日にきらっと光った。
それと同じデザインのものが、アタシの薬指にもはまっている。それを日の光にかざしてみたら、とても綺麗だった。
もうすぐ、北海道に春がやってくる。
私のオネエな同僚~かぼちゃ畑でつかまえて~/end
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