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そのいち。
昔読んだシンデレラの絵本には、かぼちゃの馬車が描かれていた。それを見て思ったものだ。こんなにでっかいかぼちゃが、あるわけないよね、って。
「アンタほんと、夢のない女ね」
新田さんが言う。
「そんなことないと思いますが」
私はそう答えた。だって現実的に、でかいかぼちゃに乗りたいかどうか考えてほしい。私は乗りたくない。絶対乗り心地が悪い。大体、ガラスの靴って歩きにくそうだし、ものすごく靴ずれしそうだ。
隣に立つ新田さんは、雑誌から抜け出て来たモデルのような佇まいである。彼はサングラスを外して、目を細めた。雑誌の裏によく載っている、焼酎の広告みたいだ。
「あんなもんですよね、あったとしても」
私はそう言って、目の前のかぼちゃ畑を指差した。北海道の地中から全て養分を吸い取ったような大きいかぼちゃが、でん、と植わっている。
「あんまりでっかいと、中身がスカスカになんのよ」
「さすがですね」
「何がさすがよ。考えりゃわかるでしょ。馬鹿なの?」
この口の悪い男は、私の元同僚にして、現在は酪農家の新田一馬だ。女のように喋っているが、れっきとした男である。新田さんは第三の性──いわゆるオネエであった。
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