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新田さんは苦い口調で、
「アンタ面倒ね。記念日とか気にするタイプでしょ」
「はい、わりと」
「はあ……頼むわよ」
「新田さん、最後にすきって言っ」
通話が切れる。私はスマホを見て、唇を尖らせた。
そんなわけで、私は何度目かの新田家訪問を果たしたのである。いや、暮らしているのだから訪問ではないか。新田父母はニコニコ顔で私を出迎えてくれた。その夜の夕飯はきたあかりを使ったコロッケ(べらぼうに美味しい)だった。
「妙子さんは一馬と同じ部屋でいいわよねえ?」
新田母──正美(まさみ)さんが、にこやかに問いかける。
「え、あ……」
新田さんをちらりと伺うと、
「別にいいけど。妙子もプライベート欲しいでしょ」
彼は無関心に答えた。
「わ、私は、べつに」
「とりあえず、お風呂入って」
私は正美さんのススメに従い、浴室へ向かう。頭を拭きつつ、ドキドキしながら部屋に入った。新田さんと最後までしたことはない。もしかしたら、今日は……。べつに、期待しているわけじゃない。新田さんに、無理させたくないし。
新田さんは、布団の中で本をめくっている。
「何読んでるんですか?」
「藤沢周平」
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