そのろく。

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 新田さんは苦い口調で、 「アンタ面倒ね。記念日とか気にするタイプでしょ」 「はい、わりと」 「はあ……頼むわよ」 「新田さん、最後にすきって言っ」  通話が切れる。私はスマホを見て、唇を尖らせた。  そんなわけで、私は何度目かの新田家訪問を果たしたのである。いや、暮らしているのだから訪問ではないか。新田父母はニコニコ顔で私を出迎えてくれた。その夜の夕飯はきたあかりを使ったコロッケ(べらぼうに美味しい)だった。 「妙子さんは一馬と同じ部屋でいいわよねえ?」  新田母──正美(まさみ)さんが、にこやかに問いかける。 「え、あ……」  新田さんをちらりと伺うと、 「別にいいけど。妙子もプライベート欲しいでしょ」  彼は無関心に答えた。 「わ、私は、べつに」 「とりあえず、お風呂入って」  私は正美さんのススメに従い、浴室へ向かう。頭を拭きつつ、ドキドキしながら部屋に入った。新田さんと最後までしたことはない。もしかしたら、今日は……。べつに、期待しているわけじゃない。新田さんに、無理させたくないし。  新田さんは、布団の中で本をめくっている。 「何読んでるんですか?」 「藤沢周平」     
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