大人の恋

2/7
前へ
/35ページ
次へ
千紗は二十三歳の派遣社員だが、今の恋の相手は会社の上司だった。秋の層雲峡の鮮やかな紅葉に刺激されながら上司の政夫の運転する車からの景色を眺め、今夜の私たちのように燃えていると感じながらホテルに到着した。まずはお風呂へと二人で入るのは躊躇い、お部屋での秘密のキスを済ませ、男女別々の大浴場へと暫し離れ離れになり廊下のソフアで待ち合わせをした。温泉にのんびりと心はワクワクしながらも心臓は少し高鳴り、今夜大人になると決意した千紗と浮かれぎみの政夫は湯上がりに売店に寄ったときに事件は起きた。千紗のママが大学同期生女子会にやって来ていた。ママは不倫相手の千紗の上司をいきなり跳び蹴りした。政夫はよろけて、だらしない弱い男のように床に倒れてしまっていた。その時ママは温泉ホテルの浴衣の下には真っ赤なパンティ一枚しか身に付けてなくて下半身全開になり、顔も怒り浸透し、真っ赤になり湯気が出ていた。しかし、我が身の格好など全く気にする様子もなく、千紗の「ママ、何すんのよ。」の声も聞こえていたのか、興奮で息があがっていた。ママの同期生も何でこの男を蹴ったのかわからず狼狽状態だった。千紗は「この人が私の不倫相手の上司の政夫さんよ。」などと紹介した記憶もなかったが、土曜出勤なのと札幌の家を朝一出てしまったものだから、それに白髪ナイスミドルと二人で浴衣姿に一瞬で察してしまっていた。彼、つまり上司は怒り浸透と言うよりショック状態で言葉なく運転してきた車で一人ですぐに帰ってしまった。千紗は仕方なく二人で紅葉のような激しい夜になるかもしれなかった温泉宿の静まりかえった部屋に戻り、泣きながら一人淋しく朝を迎えてバスで帰った。ママとはホテル内では夜も翌朝も会って話をすることはなかった。帰りの景色は鮮やかさは消えていて今にも初雪になりそうな灰色の空を見つめながら、これで職場には戻れなくなったと、昨日とは異なり千紗の目に写る色褪せた山々を眺めながら、帰宅したらママのお説教が待っていると、何処か別の惑星にUFOが迎えに来てくれて私を連れていってくれないかしらと大人への階段を転がり落ち、全身打撲のような痛みが冷えきった身体にも心にも染み渡ってきていた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加