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隼人は喫茶店で「今夜はもう帰ろうか。」と千紗を見つめた。千紗は帰りたくなかったが、あの煩いママの「遅かったわね。」の声が何処からか聞こえてきて思わず震えがきて、隼人に「寒気がするの。風邪引いたかな。」と言われてしまったが、「何でもないの。帰りましょう。」と隼人の車の中でまた下川への予定を話しながら札幌の自宅へと向かった。家の近くまで来て、このまま迷路の世界に入り込み、しばらく帰宅できなければ良いのにとか、ラブホもあったのに休憩していかないなんて、彼は全く口にもしないタイプなのかと、真面目人間を実感した。そして家の前に到着して降りようとした時に強く優しく抱き締められ初めてのキスをしたが、両親が玄関ドアを開けて出て来たので長くは続かなく、一瞬のふれ合いだった。ママが「ごめんね。もう一度キスし直すかい。」とバレてしまっていた。千紗も負けずに「出てくるの早過ぎだわ。」と少しプンプンしながらも隼人も笑って車から降りて来て初めましての挨拶をしてから、千紗のママが「散らかっておりますが、お上りになりません。」と引き留めたが、また下川でと照れながらサヨナラをした。親子三人で車が見えなくなるまでお見送りをした後またワイワイ始まり、ミエおばさんの個展を観た事や下川への計画をワインを飲みながら話していた。気が付いたら翌朝になっていて、リビングのソファーで雑魚寝している親子で、すっかり酔い潰れてしまっていた。千紗はママに「我が家の酔っ払いアートやったら良いわ。今、流行ってるじゃない。赤ちゃんを寝かせて可愛くアートする写真。ミエおばさんに対抗するなら、これが最高かも。」ママは「酔っ払いが寝てるアートなんか可愛くないわ。そんなもん。赤ちゃんだからプリティーなんだよ。」とパパを起こしてトーストかじらせて「いってらっしゃい。」と二日酔いの髪爆発のまま見送り、お掃除を始めていた。千紗は結婚相談所のバイトを続けるべきか迷っていたが、本当の理由を話すことが憂鬱になってきていた。
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