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やっと治りかけていたギックリ腰が再発したのは、授業中だった。
黒板から生徒たちのほうへ振り向いた瞬間、あの痛みが再び西を襲ったのだ。
「す、すまん……っ。今日は自習に変更してくれ……」
腰を押さえながらそう言い残し、西は鬼の形相で保健室へとかけこんだ。
再発した次の日のことである。朝のホームルームを椅子に座りながら行っていると、男子生徒の佐々木がわざわざご丁寧に「質問です」と言って手を上げた。
「なんで椅子に座ってるんですかー?」
しかも質問していいなんて許可は出していない。
「腰が痛いんだよ」
西はすぐさま出欠確認のための名簿に目を落とした。
「えーだって昨日切羽詰まった顔で腰押さえてたじゃん。そんで教室出てったじゃん。今も椅子に座ってるし。そうなった理由を教えてくださーい」
ニヤニヤと顔を見合わせる男子生徒たちの視線で、そういうことか……とこいつらが何を言いたいのかがわかった。
男ってバカだよな。とくに男子高校生という生き物は。くだらないこととエロいことが好きでしょうがないのである。かく言う自分もそうだったのだけど。
「おまえらが考えてるような理由じゃないことは確かだな。ギックリ腰だよ、ギックリ腰」
西はそれだけ言うと、名簿順に相川から名前を呼んでいった。
「えーセックスでギックリ腰になったのー?」
佐々木がそう言うと、女子たちの中から「ちょっとやめてよ」と声が上がる。
「はいはい、じゃあそれでいいから出欠とらせろ」
「うわっ、認めたっ」
めんどくせーなと思いつつ、出欠をとっていく。
しかし出欠確認の最中も、一部の男子生徒たちは相変わらず西を言葉でいじってきた。
「やりまくってギックリ腰になったとかダセえな」
「性欲弱そうなのにな」
「でも意外とすげえもん持ってんじゃね?」
「ギックリ腰って若い人はならないらしいぜ」
「んじゃにっしーって実はだいぶオッサン? 若く見えんのに」
男子たちのギックリ腰にまつわる想像力や情報量の多さに、西は呆れを通り越して感心した。
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