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改めて斎間を前にして、西はギクッとした。まてまてまて。ちょっと完璧すぎやしないか。
担任を請け負うとき、担当クラス全員の一年生のときの成績表を見せてもらった。良くも悪くも、ほとんどが毎年いるような成績の持ち主だった。
だが斎間の成績表に目を通し、西は思わず職員室で「はあ?」とうなってしまった。五段階評価で、すべての科目が五だったのだ。おまけに模試の成績も、全科目一位。
進学校とはいえここまで『秀才』と呼べる成績を残した生徒は過去にいなかった。いや、これからも出てくることはないだろう。ここ『聖央学園高校』に。
こんな生徒の担任なんてできるわけないですよと吉野校長に直談判すると、上品な校長は一言。
「もう決まったことですよ、西先生」
そう言ってオホホと笑った。
「結構いい子だぞ。確かに典型的な優等生だけどちゃんと話通じるし……俺も最初は頭良すぎてどこかネジぶっ飛んでるんじゃないかって心配してたけど、男女問わず人気あるみたいだ。しかもあの顔だろ? 特に女子からな」
重圧で小さくなった西の隣で、昨年斎間の担任だった牧が、心配無用と肩に手を乗せた。
「スーパーマンって、普段はサラリーマンじゃないですか。いきなり『おまえは今日からスーパーマンだから』って初めて言われたときって、こんな気分だったんですかね……」と西が洩らすと、牧は大きく首を横に振った。
「そら西先生、ちがうぜ。スーパーマンは先生じゃなくて斎間だ」
その通りである。
今年の三月下旬のことを思い出し、そういえば斎間とまともに会話したのはこれが初めてだと気がついた。
「ありがとうございます。今度こそ間違えないようにします」
「ああうん、いいよ。次は気をつけてな」
斎間はビーカーに入った水酸化ナトリウム水溶液を両手に持って、班へと戻っていった。
確かにいい子だな……。西はしみじみ、吉野校長に直談判した自分を恥じた。あんなに賢くて礼儀正しくて優しい男子生徒はそうそういない。こりゃモテるわな。
まだ今のクラスになって一か月ちょっと。この一年でどれだけの女子が斎間に心奪われることか。西はぼんやりと青春だなあと思った。
そのとき、何者かの手が西の尻をペロンと触った。
ビュレットが西の手からするりと抜け、床に落下して盛大に割れたのだった。
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