子どものあなた

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 何枚か撮ったあと、スマートフォンをズボンのポケットにしまう。運転席に戻ろうとしたとき、バイクに乗った男がヘルメットを外した。 「……!」  顔を見た瞬間、硬直する。  ずっと探していた男、ずっと会いたいと思っていた男が、そこにいたのである。  声が出なかった。ドックドックと心臓がゆっくりと大きく鼓動を刻む。  男はヘルメットをハンドルに引っ掛けて、バイクから降りた。こちらには気づいていないようである。  ぴっちりとしたライダースジャケットを着こなしている。体型はあの頃とほとんど変わっていない。横顔も、当時と同じだ。薄れてしまったあの男の記憶が、徐々に色を取り戻していく。輪郭が、はっきりとしていくーー。 「あ、あの」  思いきって話しかけると、男は利尻富士から視線をこちらに向けた。  男も驚いた顔をした。 「お、お久しぶりです……」  斎間がそう言うと、相手は穏やかに微笑んだ。月日を感じさせる皺が、目尻に浮かんでいる。だが、あの頃とほとんど変わっていない。 「ーー驚いた。こんなところで」 「お、おれも……まさか今日、ここで会えるなんて……」  現実味がなくて、軽くパニックになる。 「えっと、なにから話せばいいんだろう……」 「ゆっくりでいいよ」 「そういうわけにも……時間……やっぱり夜は寒いし、話したいこと……あ、そうだ」 「ん?」 「今子どもいますか!?」  失礼極まりないことを訊いた瞬間、西はブッと笑って噴きだした。  優しい笑顔と声が、目の前にある。手の届く場所に、いる。  それだけで、泣きたくなるくらいうれしい。 「久しぶりに会っていきなりその質問って」 「じゃなくて……えっと、ああそうだ。け、結婚してますかっ?」  西はバイクのシートをさすりながら言った。 「してたらこんなところでバイク乗り回してないよ」 「そ、そっか……そう、ですよね」 「そっちは? 仕事帰りって感じの服着てるけど」 「ど、道北(どうほく)で薬の営業をしてて……」
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