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「冗談ではございません。この『快眠館』はわたくしの生きがいのようなもの。たまたまわたくしとお客様のニーズが合致しただけの話です」
「おかしな人だね。でもまぁ、タダでいいって言うならありがたくそうするよ」
「はい、では、アイマスク着用のままゆっくりと上体を起こしください」
「外までこれをつけてなきゃいけないのかい?」
「えぇ。外までお客様をエスコートさせていただきますので、安心してください」
「そういうことじゃないが……まぁ、いいか。頼む」
「わたくしの手をつかんで、ゆっくりとベッドから降りて……そう、歩きますよー」
「ははは、人に手をひかれて歩くなんていつぶりだろうか」
「大人になってからは、そうないですからね」
「最後に手を引かれたのはいつだろうなぁ……あぁ、そういえば。小さいときに散歩でここいらを親父と歩いたことがある」
「お父様とですか」
「そのときに……なんだったかなぁ、見たことない動物をみたんだ」
「動物?」
「四つ足で、大きくて……絵を描いて説明したのに、だぁれも信じちゃくれない。しまいには『そんなバケモンいるもんか。それにその絵、ここは、こうして……ほれ、マレーバクの完成だ』だなんてな。勝手に子どもの描いたもん改造してエラソーに……今でもそんときのことを思い出すとムカムカするんだ」
「それはそれは、お気の毒でしたね」
「あんたもどうせ信じてねぇんだろ?」
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