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第9章 チョコ、お前も知っている
チョコが尋ねた。
「いじめていたのは田中君たちかい」
田中と田坂も柔道部の練習で残っていて呼び集められていたが、周りの証言を集めてから二人に聴くつもりなのか、二人ともまだ相談室に入っていなかった。
「いや、田中たちだけじゃないです。僕もいじめに加わっていました」
「えっ、本当かい」チョコが驚いた声を上げた。
「ほかの人のことは言いたくはないですけど、クラス中です。それは寺田先生だって知ったでしょう。先生もいじめに加わっていたんだから」
それはチョコが生徒たちに最も言ってほしくないことだったはずだ。
「何を言ってるんだ。僕は大脇君とクラスのみんなの関係が良くないので、大脇君が溶け込めるようにいろいろ苦心していたんだ」
「でもいじめはそもそも、先生が大脇を『ノーアンサー』って呼んだときからひどくなっているんですよ」
チョコが言い返そうとするのを教頭が止めた。
「先生、きょうは生徒から話を聴く場なんですから。君、続けて」
勇一は知っている、いじめの経緯を話した。
いじめが始まったのは2年生になってしばらく経った4月末だった。ある日、大脇が風邪で体調を崩し、教室で嘔吐した。それをきっかけに大脇と同じ小学校から来ていた田中が「ヘド、ヘド」と大脇をからかい始めた。
大脇は小学6年の途中に転校してきて小学校のときから田中と仲が悪く、それを中学でも引き摺っていた。「ヘド」の話自体は大したことにはならなかったが、その1週間ぐらい後の英語の授業中だった。
大脇が居眠りをしていて、チョコにあてられても何も答えられなかった。チョコが何を思ったのか「君はノーアンサー君だな」と言って笑い、これが大脇へのからかいをいじめに変える小さな引き金を引いた。教師がいじめを公認した格好になった。「ノーアンサー」が大脇のあだ名となり、何かのたびに「ノーアンサー」とはやしたてられ、嘲られた。
「ノーアンサー」と侮られ続けることが、中学生の未成長な心をどれほど傷つけることか。勇一たちは少しも気付かなかった。
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