第4章 弱いチームの勝ち方

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第4章 弱いチームの勝ち方

といっても、青山西の得点力は低い。打率3割2分を打っている3番の大田と4番の左打者の小池の2人だけが3割バッターで、次に打率が高いのは6番の勇一の2割8分だ。2割ちょっとの選手も交じっている。ただ、走るのが得意な足の速い選手が揃っていた。 準決勝は東洋工業のミスが絡んで実にラッキーに点が入った。青山西が初回、四球の1番打者をバントで送った後、東洋工業のエースが焦って二塁への牽制球を大暴投して1死三塁になり、3番の大田がスクイズを決めていきなり先取点を奪った。 六回には青山西がヒットの後、内野のエラーで一、二塁にされ、東洋工業の4番バッターにタイムリー安打を打たれて同点に追いつかれたが、八回に勝ち越した。四球のランナーをバントで送った後、小池が打ったセンター前へのライナーをノーバウンドで捕ろうと突っ込んだ東洋工業のセンターが大きく後ろにそらし、二塁走者が躍り上がって本塁にかえってきた。最後は勇一が抑えきった。 ついていると言えばついている、あるいは競り合いに強いとも言える試合だったが、球場から学校に戻ってミーティングをしたとき、エレキが言った。 「人生というのはつき、運、偶然も実力のうちだ。それを引き付け、勝ちに結び付けられる実力があったからつきとして現れているんだ。あすも全力で闘ってつきを引き付けよう」 みな、エレキの言う通りだと思った。田舎の国立大学の軟式野球同好会にいた野球経験しかないエレキにはあまり実感がないかもしれないが、高校野球は実力のあるチーム同士がぶつかると、勝負の行方は数少ないミスと、打球の飛ぶコースとか「つき」に大きく左右される。 勝つためにはまず集中力を高めてミスをなくし、つきを引き付ける土台を整えることだ。青山西ではダラダラとした練習が集中力を落とす最大の原因だと考え、毎日の練習から変えた。練習中、守備位置についたりするのは全て全力疾走。ミスをすると「腰が高かったから捕れなかった」などとすぐ大声で原因を告げ、欠点を素早く自覚し反省するようにした。みなエレキが「力学的な視点」で考えた練習方法だった。最初はぎこちなかったが、慣れるとみるみる練習の効率が上がった。何よりも走力がついた。
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