第6章 いったい誰なんだ?

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第6章 いったい誰なんだ?

勇一の中学時代のいじめ自殺といえば、青山中2年のとき同じクラスだった大脇の事件しかない。 時計を見ると午後6時半すぎだった。まだ空は明るい。同じ学年で青山中から野球部に入っているのは勇一と大田、小池の3人だけだ。3人とも大脇が自殺したとき、同じ2年A組だった。シュークリーム工場の前ですぐ大田に電話した。 「今からすぐ会えるか。変なメールが来てるんだ」 「どうしたんだ、早く寝ないと。明日も連投だぞ」 「中学のときに自殺した大脇のこと覚えているか。あすの決勝で負けないと、おれたちが大脇をいじめて自殺に追い込んだ証拠をバラすって言っているんだ」 「大脇の自殺って、確か中二のときの話だろう。今頃何をバラすって言うんだ」 「分からない。でも決勝で負けろって言っている。脅しだ。とにかく来てくれ。小池も呼ぶよ」 勇一の家から自転車で1分ばかりの所にある大鳥神社で会うことにした。学校から家が近い小池は「すぐ行く」と携帯で話しながら慌てふためいていた。 大田は制服姿のまま自転車で駆けつけてきた。 「どんなメールなんだ」 2人に携帯を開いてメールを見せた。 「何だよ、これ。誰なんだ」 小池が画面を覗き込んだ。身長は170㌢とそう大きくないのに、頭が大きく自分に合うヘルメットと帽子を探すのに苦労している。 「分からん。警察に行けば発信者を調べられるだろうけど」 「警察に相談する話じゃないだろう。単なる嫌がらせじゃないか」大田が首を傾げた。 「若狭、こいつはなぜお前の携帯のアドレスを知ってるんだ」小池が尋ねた。 「クラスの連絡簿に携帯のアドレスを入れてるだろう。あっという間にいろんなところに渡っている」 「大脇の事件だけど、裁判とかは全部終わった。警察は結局、いじめがきつかった柔道部の田中と田坂とか4人のいじめグループを補導したよな。おれたち同じクラスの生徒のほぼ全員が学校から訓戒処分を受けて、それで生徒の処分は終わった。校長とか担任とかも事件の後、すぐ減給処分を受けた。大脇の親父が市に損害賠償を求めた裁判も地裁は負けたけど、この前、賠償金の支払いで市と和解したって新聞に載ってたよな」 大田はチームリーダーらしく、難しい話も良く知っていた。和解の記事が載っていたのは1ヵ月くらい前だった。人一人が自ら命を絶った。そう簡単に過去にはならないのだ。勇一たちは4年前に引き戻された気持ちになった。
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