第7章 なぜ、止められなかった?

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第7章 なぜ、止められなかった?

大脇。小柄だが、がっちりとした、目の大きい同級生は中学2年の9月の末に自殺した。 その年の夏も猛暑で、いつまでも暑さが衰えなかった。良く晴れた日だった。勇一たちが野球部の練習が終わってグラウンドから校門近くにある部室に行こうとしていると、校舎から野球部の顧問の体育教師が飛び出してきた。 「2年生はいるか」 「はい」と大田が答えると「A組の生徒は3人だったな」と勇一と大田、小池の顔を順番に覗き込んだ。 「すぐ教員室に来てくれ」 泥まみれのユニフォームのまま教員室の横の会議室に連れて行かれた。部活で残っていたA組のほかのクラブの部員たちも15、6人集まった。 教頭が「座って」と勇一たちを座らせると、咳き込みながら話し出した。 「A組の大脇君が午後一時ごろ、自宅近くの高層マンションの通路から飛び降りて死亡しました。お父さんが家の大脇君の机の上を見たら、ノートに書かれた遺書がありました。自殺です。さきほどお父さんが来られたのですが、遺書には学校でいじめられたと書かれていました。そういう事実があったのかどうか、一人ずつ話を聴きます。帰宅している生徒には今、ほかの先生方が手分けして話を聴いています」 一斉に「えっ」という声が上がった。「きょう大脇、休んでたよな」と誰かが話した。生徒の多くが後悔の交じった驚きを感じていた。 いじめはあったし、まさに進行中だった。いじめが始まった最初の頃はクラスのほぼ全員が加わっていた。いじめが悪質化してからは、中心になっている四人グループ以外の生徒はほとんど関わらなくなったものの、加速度的にいじめが悪化するのを遠巻きに見守り、誰も止めなかった。 止めなければという思いを抱えながら、ズルズル沈黙を続けてきた。苦い後悔を多くの生徒が引き摺っていた。
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