第8章 誰も止めなかった

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第8章 誰も止めなかった

会議室横にある面談室に一人ずつ呼ばれた。勇一は8番目だった。 面談室に入ると、教頭と「チョコ」というあだ名のクラス担任の英語教師の寺田、生徒指導担当の数学教師の3人がテーブルの向こう側に座っていた。 寺田は何かにつけ細かく、長身の体を折り曲げるようにしてちょこちょこ動き回るから生徒の間で「チョコ」と呼ばれていた。授業はさっぱり面白くなく、都合が悪くなると怒り出すため生徒の人気はなかった。人気のないのを自覚しているためか、つまらないことで生徒たちに迎合してきた。 「きょうは大脇君、休んでたね」教頭が尋ねてきた。 「はい」 「きのうはどうだった」 「大脇は最近、クラスであまり目立たなくなっていました。でも、いじめはきのうもありました」と答えた後、勇一は付け加えた。 「僕たちは止めませんでした…反省しています」 大脇はいじめグループ以外の多くの生徒が関心を持たない、目立たない存在になっていた。いじめを止められない自分たちが心の葛藤を感じないで済むように、無意識のうちに目をそむけていたからだろうが。 だが、無関心のベールの陰でその日も、いじめは進行していた。昼休み時間、勇一たちはグラウンドでバットの素振りをやることに決めていた。それを終えて汗を拭いながら教室に戻ると、教室の後ろの方で大きくはやし立てる声がして「やめてくれ」と言って大脇が輪の中から抜け出してきた。 「何かあったのか」 勇一が隣の席の女子生徒に尋ねた。 「連中、いつもの雑巾投げをきょうは大脇君の顔を目掛けてやったの。顔を雑巾で拭いた人までいたわ」女子生徒が顔をしかめた。 「連中」の中心人物である柔道部の田中が勇一の方に向かって手を振り、いじめの成果をアピールしていた。太っていて体重が100㌔近くあり陽気な性格なのだが、突然切れて暴れた。その横に田中の「子分」で同じ柔道部員の小柄な田坂がいた。その周りに2人のやることにズルズル付いていく2人がいて、4人でグループを作っていた。
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