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辺境に佇む神殿。
その別殿の執務室でのんびりとお茶を飲んでいた【神官長】は、ふと顔を上げた。
「やれやれ。待ちくたびれたわい」
目を細め、満足げに頷く。
ゆっくりと湯呑みを置くと、ソファーを立って執務室を後にした。
神官長が別殿からの渡り廊下に足を踏み出した、その時。
本殿の中から風の様にふわりと影が飛び出し、真っ直ぐに向かって来ると神官長の前で足を止めた。
「よ♪」
まるでひさびさに会った友人にでも話しかける様に軽く片手を上げた影は青年の形を取った。
神官長も親しげに顔を綻ばせる。
「どちらへ行かれるのですかな?【魔剣】殿」
【魔剣】と呼ばれた青年は、少し困った様な笑みを浮かべると軽く首を傾げて、こう言った。
「さぁ?」
肩を竦める魔剣に神官長も倣う。
「【聖剣】殿が目覚める前に逃げるつもりかの?」
ふぉっふぉっふぉっ、と笑う神官長に魔剣が苦笑で応える。
「いやー、美人ちゃんとデートしたいのは山々だけどなー。あの残念っぷりには付き合ってらんねぇわー」
てな訳で、と魔剣が悪戯っぽく笑った。
「俺は消えるんで、あとはヨロシク♪」
魔剣の姿は一瞬で消え、一陣の風が神官長の長い髭を揺らした。
「やれやれ。面倒事を押し付けられたのぉ。『文献』にあった通りじゃな」
ため息を一つこぼし、再び本殿に向かって歩き出す。
「さぁて。そろそろ『あちら』も来る頃かの」
独りごちながら神官長は本殿へと、のんびりした足取りで向かった。
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