10人が本棚に入れています
本棚に追加
別殿にある応接室に三人を通し、神官長は呼鈴を鳴らした。
すぐにノックが聞こえ、お茶を頼む神官長の声が聞こえる。
「すぐにお茶が来ますので、掛けて寛いでください」
躊躇う二人を尻目にさっさと一人掛けソファーに腰を下ろし、優雅に足を組む聖剣。
「お二人も、さぁどうぞ」
やんわりと言われて、聖剣と向かい合う形で二人掛けソファーに並んで腰を下ろす。
コの字になる様に神官長が腰を下ろしたタイミングでノックが聞こえた。
慌てて腰を上げようとした二人を手で制し、ドアに向けて声をかける。
「入りなさい」
ドアが遠慮がちに開かれ、ティーセットを載せたワゴンが入ってくる。
ワゴンを押すのはメイド…ではなく神官長と似た服装の少年。中性的な顔立ちに桜色のふんわりした髪が印象的である。
「失礼します」
伏目がちにお茶を淹れる所作に女性が見惚れる。
お茶と焼き菓子をテーブルに置き、退室しようとする少年に神官長が声をかけた。
「【エル】、それを片付けたら【ユーリ】と【タクト】殿と一緒にここに来なさい」
【エル】と呼ばれた少年はほんの一瞬、眉を顰めた様に見えた。だが、即座に平静に戻り
「かしこまりました」
何事も無かった様にドアを閉めた。
「さて、年寄りの話は長くなると相場が決まっております。お茶を飲みながらお聞きください」
「なるべく手短にしないと『異界者』達が眠ってしまうぞ?」
笑いを含んだ声で聖剣が茶化す。
「ふぉっふぉっふぉっ。それは困りますな。せいぜい努力しましょうぞ」
「そうしてくれ。あぁそれから」
聖剣が口角を少し上げる。
「普段通りで構わない。敬語はナシだ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
聖剣の言葉に神官長が苦笑して長い髭を撫でる。
「お互い堅苦しいのは苦手の様で。では遠慮無く」
ティーカップを持ち上げて喉を湿した神官長がおもむろに口を開いた。
そして『世界』が語られる。
『聖魔双剣の物語』が。
最初のコメントを投稿しよう!