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「高校の時、たまに弁当がオムライスだった」
「へ? あ、うん。よく作ってもらってたけど」
「オムライスの時、若狭、弁当開けるとワーって喜んで、ニコニコ、本当に幸せそうに食べてた。だから」
懐かしい思い出を語る曽我部がしみじみというか、妙に優しい顔になった。
愛情がこもってるって感じ? 変な言い方すると、まるで俺のことを好き。みたいな?
「だから……気がついたら、すごく好きになってたんだ」
優しい目のまま、曽我部が俺を見た。そしてハッとした顔になり続ける。
「お、オムライス! ……を」
嘘つけよ。
あからさまな曽我部の態度。あまりにも酷いから妙にかわいらしくさえ見えてきた。そして、ちょっといじめたくなってきた。
「そんな好きなのか……」
「う、うん。好き」
コクコクと頷く曽我部。素直なやつだな。これで誤魔化せてると思ってんだから天然というか、なんというか。それに、そっか、眼鏡外したのって……俺が近いからハッキリ見えて恥ずかしいから……とか?
「んで、今日泊まって行くんだっけ?」
「え! あ、いや……」
曽我部は背筋を伸ばし、通りに面した窓を見た。何度見たって天気は変わらない。台風はこれからやってくるんだから。
「帰るのか? 凄く雨だし、停電で真っ暗だけど」
「う、うん……」
曽我部は困ったように眉を下げて唇をキュッと結んだ。
「そっかぁ……俺、暗いの苦手なんだよね」
一度伏せた目をチラリと上げて曽我部を見ると、曽我部がまた焦った表情になった。
面白い。
「じゃ、じゃあ……迷惑じゃなかったら……と、泊まるよ……」
「そ? 悪いな。助かる」
「そんな。俺のほうこそ……助かるよ?」
曽我部は困ったように眉を下げたまま、情けない顔で笑ってみせた。その顔が妙に胸のところをソワソワさせる。
なんだろう、俺男に興味なかったんだけど、なんとなくいけるような気がするこの感じ。いったいなんなんだ。それに、やけに絡みたくなるというか、曽我部の反応をいろいろ見たくなるというか……。
俺は曽我部の左肩に手を置き、反対側の耳のそばへ顔を寄せた。
「ついでに、味見してみる?」
完
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