幸せのオムライス

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 このサラリーマンは定休日の水曜以外、平日六時半頃に毎日やってくる常連客だ。年恰好は俺より少し上かな? いつもは前の通りを眺めることのできる窓際のテーブルへ座る。でもサラリーマンは入り口に突っ立ったまま、内ポケットからハンカチを取り出しスーツを拭いだした。全身ずぶ濡れで店内を濡らしては申し訳ないと思ったのだろう。  俺は慌てて奥へ引っ込みタオルを数枚掴むと、ボーッと立っているサラリーマンへそれを手渡した。 「すごい雨ですよね。よかったらどうぞ」 「……あ、すみません」  サラリーマンはペコッと軽く頭を下げるとタオルを受け取った。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを解くとタオルで髪をガシガシ乱暴に拭う。それから使っていないタオルを持ち上げて俺を見た。 「あの、これ椅子に敷いて座っていいですか?」  おお……そうか。こんなに濡れてるんじゃ風邪ひくな。ズボンもおそらくパンツもぐしょぐしょだろう。 「いいですけど。ああー、よかったら。シャワー使います?」  サラリーマンは曇った眼鏡のまま「え!」という戸惑った表情になった。 「いや、暖房はいくらでも上げるけど、風邪ひいちゃうでしょ。そんな濡れたままじゃ。シャツだって張り付いて気持ち悪いだろうし。他に客もいないし。どうせさっきも店閉めようかと思ってたところなんですよ」 「……はぁ……、じゃ、じゃあ……なんかすみません」  サラリーマンはもう一度頭を下げた。 「常連さんだし、大事にしなくちゃね。こっち、どうぞ」  奥のドアを開け「おいでおいで」と手招きする。この店は一階が店舗で二階が住居スペースになっている。店舗用のトイレのドア。その奥に二階へ繋がるドアがある。  サラリーマンは神妙な表情のまま、店の奥へ入ってきた。
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