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「あの、マスターひとりですか?」
「ええ。だからそんな気兼ねしなくて平気ですよ」
奥のドアを開け言った。
「ここが玄関」
「……おじゃまします」
一畳ほどのコンクリ打ちっぱなしのスペース。その横にはすぐに階段。
サラリーマンは靴を脱ぐとびしょ濡れの靴下を脱ぎ、持っていたタオルで足裏を拭いた。それを待って二階へ案内する。
「風呂はそこです」
「あ、はい。……じゃあ、いってきます」
サラリーマンが風呂場へ入るのを見送り、着替えになにかあったかな? とクローゼットを開ける。
風呂を勧めといて、脱水かけるにしても湿った服を着させたら意味ないだろうし、かといって自分のを「ハイどうぞ」ってわけにもいかない。足元の引き出しを漁るともう着なくなったジャージがあった。これでも来てもらうしかほかないなと、ジャージを手に風呂場へ向かう。脱衣所のドアをノックしてみた。返事がない。かすかにシャワーの音がする。
ドアノブをひねりさらにすりガラスのドアをノックした。直ぐにドアが少しだけ開き、前髪を顔に貼り付けた顔が「はい?」と返事をした。
「や、開けなくていいですよ。着替え持ってきたよってだけなんで。お古のジャージなんですけど大丈夫? もう捨てちゃうやつだから悪いけど、ノーパンではいてもらっていいんで。下着とシャツは洗濯して乾燥機かけたら着れるだろうし」
「あ、はい。ありがとうございます」
申し訳なさそうに頭を下げるサラリーマン。
「困ったときは……ってやつですよ。なんでも適当に使ってくれて構わないし。洗濯回しておきましょうか?」
「あ、そんな、もうお気遣いなく」
「はぁ、じゃあ。洗剤も棚にあるの使って、洗濯機の使い方とか分かりますよね? あ! 注文はオムライスで大丈夫でした?」
「あぁ、はい。オムライスで」
「了解です。作っときますね。ごゆっくり」
ドアを閉めようとした時、慌てたようにサラリーマンが言った。
「あ! あの、デミグラソースのハンバーグ単品もいいですか?」
「えぇ、もちろん」
「じゃあ、お願いします」
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