幸せのオムライス

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 ドアが閉まってまたシャワーの音。台風と一緒にやってきた妙な出来事に、俺は少しワクワクしていた。常連とはいえ、カウンターの席に座るわけでもないお客だから、今まで会話らしい会話をしたことがなかった。交わす言葉も「いつもありがとうございます」程度だ。よく見ている人物だけど、実は何も知らない常連さん。年齢もさほど変わらない相手だ。常連さんと友達になるっていうのも悪くない。  店内へ戻りカウンターに置いたエプロンを再び掛け腕まくりしてキッチンに入りさっそく調理開始。後は仕上げ状態にし、カウンターへ戻った。ランチョンマットとフォークナイフ、スプーンを並べていると、ジャージ姿のサラリーマンがのそっと奥から出てきた。 「シャワー、ありがとうございました」 「洗濯機、使えました? あ、良かったらカウンターにどうですか?」 「……はい」  いつもナチュラルな七三に分けた前髪が全部降りていて幼い雰囲気になっていた。背丈は俺と同じくらい。年も思ったより近そうだ。スーツの時はもっと……三十路近くかな? とも思ったけど、ジャージだから尚更かもしれない。サラリーマンは何故か掛けていた眼鏡を外し、手に握った。 「どうぞ、座って」  サラリーマンは無言でペコッと頭を下げて目の前に腰掛けた。いそいそと皿に盛りつけデミグラスソースを上からたっぷりと掛ける。ポテトにグラッセ、クレソンを添え運ぶ。 「はい、単品のハンバーグね。オムライスも直ぐにお持ちしますよ」  グラスにジョッキの水を注ぎ一緒に出した。 「いただきます」  サラリーマンは両手を合わせナイフとフォークを持った。一口大に切ったハンバーグをパクッといきなり口へ入れ、「はふはふ」と息を吐きながら食べる。凄い勢いだ。よっぽどお腹が空いていたらしい。  卵を二個フライパンに割って火をかける。作っていたバターチキンライスを乗せて、黄色の卵で覆ってやって出来上がりだ。オムライスソースを掛け小さなサラダと一緒に出す。ハンバーグは案の定、ほとんど食べ終わっていた。 「はい、お待たせしました」 「いただきます」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加