幸せのオムライス

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 サラリーマンはいつも六時半頃に店へやってきて、オムライスセットを注文していた。平日、定休日以外毎日オムライス。俺もオムライスは好きだけど、そんな俺でも良く飽きないな。と思ってしまうほど。よっぽどオムライスが好きなんだろう。  土日は流石にやってこない。きっと会社帰りで自分で夕飯を作るのが億劫でここで夕飯を済ましているのだろう。コンビニ弁当じゃなくてわざわざ洋食屋のオムライスを食べるなんて……きっと俺のオムライスの虜なんだろう。そうとしか思えない。  サラリーマンは何か喋るでもなく黙々とオムライスを食べ続けている。外は相変わらずの大雨だ。  この人が常連客になったのはいつ頃だろうか。春先だった記憶。そう思うと、半年以上オムライスを食べにこの店へ通い続けてる。いつもひとりで来て、ひとりで黙々と食べて、静かに帰っていく。毎日通ってるのにレジで声を掛けても無言とか、なかなかの素っ気なさ。お愛想の笑顔すら見たことないかもな。だからこそ、これを機に仲良くなれればいいなと思う。  俺はカウンターに肘を突き、サラリーマンを眺めた。 「旨いっすか?」 「……美味しいです……すごく……」  もごもご言いながら、サラリーマンは俯いていた顔をさらに俯かせてしまった。耳が赤い。これじゃ笑顔どころか顔も見れないな。 「いつも食べに来てくれてますよね。ありがとうございます」 「オムライス……好きなんで」  相変わらず下を向いたまま。 「ですよね! 俺も好きなんです」 「…………」  サラリーマンは残りの三口をパクパクと掻き込むように口へ入れると、水をグーッと飲んだ。 「もっと味わって食べてほしいな」  グラスに水を注ぎ入れながら言った途端、店の照明が突然落ちた。  停電だ。
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