118人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ……」
サラリーマンも流石に顔を上げ、周りをキョロキョロ見回している。
「ちょっと待ってくださいね」
「はい」
俺はカウンターの下から懐中電灯を出し、食器棚から蝋燭と小皿を二枚取り出し戻った。カウンターにお皿を置き、その上に火を点けた蝋燭をセッティングする。
「点くまで、これで勘弁してくださいね」
「全然大丈夫です」
サラリーマンはホッとした声。さっきまで俯いてたのに、顔を上げ少しだけ笑ってる。
お! と思い、ここぞとばかりに顔を見れば、なんとなく見覚えのあるような顔。右目の下にある小さな泣きぼくろ。綺麗な卵型の輪郭。
俺はサラリーマンに顔を寄せ、よーく目を凝らした。サラリーマンがギョッとした表情になる。身体を引き俯こうとするサラリーマンの顔を、俺は両手でガシッと挟んだ。確かに見覚えがある。このホクロ。それに潤いたっぷりのキラキラした目。
「もしかして、平徳高校でした?」
「いや……えっと……」
サラリーマンは焦った表情のまま、尖らせた口をピコピコ動かした。
「見たことあるんですよ。知り合いにすごく似てる。俺、平徳の二十二年度卒業生なんですけど」
「…………」
サラリーマンはいよいよ追い詰められた表情になった。
その表情を見て思い出す。たしか、バレンタインデーの時、机の中に名無しのチョコレートが入っていた。それを周りの人間に見つかり、からかわれ、こんな顔になってた。
あれは、誰だったか……結構苗字は変わった名前だった。たしか、そ……
「曽我部 学!」
「!」
曽我部は両頬を挟まれたまま目を見開き、表情を強ばらせた。ショックを受けてるような顔。
「え、ど、どした?」
なんでこんな? 俺、名前間違った?
「ごめん。黙ってて……」
カウンターに置いた蝋燭に照らされながら、曽我部はタコさん口で謝ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!