幸せのオムライス

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「あ……」  サラリーマンも流石に顔を上げ、周りをキョロキョロ見回している。 「ちょっと待ってくださいね」 「はい」  俺はカウンターの下から懐中電灯を出し、食器棚から蝋燭と小皿を二枚取り出し戻った。カウンターにお皿を置き、その上に火を点けた蝋燭をセッティングする。 「点くまで、これで勘弁してくださいね」 「全然大丈夫です」  サラリーマンはホッとした声。さっきまで俯いてたのに、顔を上げ少しだけ笑ってる。  お! と思い、ここぞとばかりに顔を見れば、なんとなく見覚えのあるような顔。右目の下にある小さな泣きぼくろ。綺麗な卵型の輪郭。  俺はサラリーマンに顔を寄せ、よーく目を凝らした。サラリーマンがギョッとした表情になる。身体を引き俯こうとするサラリーマンの顔を、俺は両手でガシッと挟んだ。確かに見覚えがある。このホクロ。それに潤いたっぷりのキラキラした目。 「もしかして、平徳高校でした?」  「いや……えっと……」  サラリーマンは焦った表情のまま、尖らせた口をピコピコ動かした。 「見たことあるんですよ。知り合いにすごく似てる。俺、平徳の二十二年度卒業生なんですけど」 「…………」  サラリーマンはいよいよ追い詰められた表情になった。  その表情を見て思い出す。たしか、バレンタインデーの時、机の中に名無しのチョコレートが入っていた。それを周りの人間に見つかり、からかわれ、こんな顔になってた。  あれは、誰だったか……結構苗字は変わった名前だった。たしか、そ…… 「曽我部 学!」 「!」  曽我部は両頬を挟まれたまま目を見開き、表情を強ばらせた。ショックを受けてるような顔。 「え、ど、どした?」  なんでこんな? 俺、名前間違った? 「ごめん。黙ってて……」  カウンターに置いた蝋燭に照らされながら、曽我部はタコさん口で謝ってきた。
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