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「関心を惹けない君は、その後、どうしたのかね」
ふっ、っと、正人は自嘲した。
「もちろん……振り払われたさ。いらない物を捨てるように、な」
少しの間、女はその手を見つめた後に。
笑うこともなく、正人の手を離し、その脇を通り過ぎた。
浮かべられた笑顔と、衰えない指先が求めたのは……自らを賞賛する人間達が映し出された、ここではないどこかだった。
「……ただ、声が枯れるまで、その背中にまた呼びかけたよ」
しかし、言葉にならない叫びも、バタフライには届かなかった。
少しして女は、困惑した顔を浮かべた。
いつまでもつかめない映像が、偽物だと気づいたからじゃないか。正人は、そう語る。
「見分けがつかなかったのか?」
「――見せつけるため、だったんじゃないかね。く、くく……」
苦痛の笑い声は、なにかがズレたような、気味の悪さを感じさせる。
「歩み去ろうとする、ムラサキ。……ためらいのない背中に、俺は、叫んだ」
「止まったのかね」
「……ふりかえりすら、しなかった」
「それで?」
すっと、男は指先をあげ。
――鈍く重い銃声が、部屋に響き渡ったことを話した。
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