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「……短絡的だな」
「手に入らぬなら、夢は、もう俺だけのものだ」
管理官の呟きに、男は、どこか夢見るように答えた。
――いや、答えてはいないのかもしれない。
「夢は現実となったのに、枯れ果てていく。なら、違う夢が現実になる前に……散らしてしまえばいい」
夢を求め、彼女との幸せを願っていた、純粋な少年はもういない。
ここにいるのは、バタフライの力で栄華を築き、その果てに嫉妬にとりつかれた……哀れな老人だけだった。
「なるほど」
管理官は頷き、正人の部屋へ踏みいった時の惨状を想い出す。
――見知らぬ女の眉間を打ち抜き、自室で一人笑い続ける、狂った男の姿。
「もう、俺は満足だ。あの人間達も、これからの人間達も、もうムラサキを手に入れることはない」
「同種の生物が、同じ星にいるかも知れないぞ」
「航行データは消去済みだ。それに……もし見つかっても、それは、俺のムラサキじゃない」
――どんなに能力を拡大しても、残った欲が、女とは。
(力の拡大をしても、そこに行き着くのは、生物の性なのか)
それとも、男の本質が、純粋で嫉妬深いだけだったのか。
……その分析もまた、これから始められることだろう。
管理官は、男の話を一通り聞き終え、納得の頷きをした。
「君の話は、よく理解できた。この証言は記録され、今後、有効に活用されることだろう」
「ふんっ。やはりお前達は、いつもそうだ。俺達を、道具としてしか見ていない」
まれに正人へと戻る、鋭い視線。
それは、バタフライが与えた、夢を求めた少年の熱意なのだろうか。
「だが、俺の作り出した組織は、まだ残っている。俺の夢は、叶ったんだよ。俺は理想の場所を造り、ムラサキは俺以外にふりむかない。……俺はもう、満足さ」
確かに、正人の動きは狡猾だった。政府の干渉を受ける境目を立ち回り、彼は、自分と似た境遇の者達と勢力を拡大した。
それは、まさしく開拓民達にとって、夢の国と言えよう。
だが……管理官は、だからこそ、役職にあわない憐憫を感じてしまう。
「――胡蝶の夢、か」
「なんだと?」
「一つ、君にいい話を聞かせよう」
管理官は、正気を取り戻したかのような顔をする正人に、ゆっくりと問いかけた。
「――いつからそれが、現実だと想っていたのだね?」
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