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「……なにを、言っている?」
眼を見開き、答える正人の声は、震えていた。
「君の人生とバタフライの夢は、はたして、いつから始まっていたのか? 明確に、答えることができるかね」
「ふざけるな。俺は覚えている。彼女と密航し、裏社会とつながりを持って、パイプをつくり……」
「縁もつながりもない、一人の開拓使の力でか? バタフライの力は、はたして、どこまで君の夢を助けたのだ?」
「う、嘘だ!」
疲れ果てた正人の心に、今までの記憶がよみがえる。
ムラサキとの出会い。育み。慈しみ。
地球への帰還。潜入。立身出世。
現実感はある。真実だという確信もある。
――だが、それを支えてくれる彼女も人も、ここにはいない。
バタフライが与えた夢と力は、正人自身の心と意識を、ひどく不安定なものへと変化させていたのだ。
「お、俺は、夢を叶えた。みなが生きるための、社会を変えるための、第一歩を……!」
「一つだけ、夢でないことを教えよう」
管理官は、先ほどよりも少しだけ、語気を強めて告げた。
「――ムラサキは、生きている」
管理官の言葉に、正人は眼を見開く。
「な、なん……」
「だが、君の元には、もう戻ってこない。……君が手に入れたかった夢を、君自身で、壊してしまったのだからな」
「う、嘘だ。嘘だ、うそだ、ウソダァァァ!?」
絶叫する正人は、だが、そうでないと否定する情報を、何も持っていなかった。
ただ、拘束され、閉ざされた部屋で、自らの考えを信じるしかない。
だが――バタフライが与えた超感覚は、正人の想像力と感受性すら、大きく拡大してしまっていた。
「……いくぞ」
管理官はそう呟き、正人の部屋を後にした。
絶叫を繰り返しながら、まれにバタフライとの日々を想い出して涙する、壊れかけた老人を後にして。
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