夢現の狭間に見えるのは

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 ※※※ 「一途な想いゆえ、でしょうか。あの様子では、自分の考えが崩れていくのも早いでしょう」  部屋を後にした管理官に、秘書が語りかける。  周囲の支えや認識。それらがあって、人間の認識は成り立つ。  政府によって情報を歪められ、二度と日の眼を見ない立場に置かれた正人にとって、真実は虚構へと変わっていくだろう。  ――管理官は、この社会がそうした秩序で成り立っていることを、自覚している。 (世が世なら、独裁国家やディストピア、などと呼ばれていたのだろうな)  だが、それらを忌避する時代も終わった。  生まれる前から役割を与えられ、考えることを放棄し、誰かに選択され続けるシステムを築き上げたのも……そうした世界を嫌っていたはずの、同じ人間という種族だ。 「今、どんなお気持ちですか」  後ろをついて歩く秘書の問いかけに、試されているのだと感じる。 「バタフライの力に溺れ、壊れた者として、適切だ。それに、彼のカリスマは人工的に造られたものだということが、より事件に信憑を与える」 「危険分子の首謀者、という筋書にも添いますしね」 「……バタフライに魅入られた者達を、一掃する口実にもなる」 「あの生物は、男に力を授けながら、それによって築いたものを破壊してもいた。……皮肉なものですね」  同情しているような言葉を、秘書は口にする。  だが逆に、管理官にはあざ笑っているようにも聞こえた。  ――正人の造り上げた組織は、同時に、バタフライの力に蝕まれている。  ――今、彼らは現実と夢の両側面で、その支柱を失っている。 (今なら、反乱の危険のある者達を、一掃できる)  彼らは、かつての人間達が持っていた、自由な意思と夢を持つことができるのだろう。  だが――夢を見ることは、この社会で、許されてはいない。
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