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「バタフライの力。野放しは危険ですが、コントロールできるようになれば、あらゆる方面に転用可能ですからね」
「兵器にか?」
「人類の進歩に、ですよ」
「物は言いようだな」
「お優しいのですね、管理監殿は」
「感傷だと、いいたいのか」
「家畜や植物にも、同じ情を持つタイプでしたか?」
――秘書の眼が、眼鏡の縁を触る。
疑いを感じた時に出る癖だと、彼自身は、気づいているのだろうか。
「安心しろ。情けだけで研究を邪魔するような、ロマンチストではないよ」
言い訳のようにも、聞こえただろうか。
ひとまず眼鏡から手を離し、秘書は、まるで立場が上のもののように話しかける。
「あの蝶は、人ではないのです。我々人類の渇きを救う、癒しなのですよ」
――管理社会となったのには、理由がある。
食糧不足に、人口の増加。資源の枯渇に、自然環境の悪化。
どんなに先進的な技術が生まれようと、孤独、高齢化、安楽死……人の命は、不安の夢ばかりを見る。
だからこそ、蝶の見せる夢は、果てしない可能性を秘めている。
「――幻がないと、今を見ることすら、叶わないか」
しかし……と、管理官は想う。
無限に終わらない願いを持ち、夢幻のような力にすがる、人間達。
『生きている』という意志を、いったい、どこまで持てば満たされるのだろう。
「いったい、本物の夢を見ているのは、誰なのだろうな?」
――カプセルの中のバタフライが、微笑んだような気がした。
だが、それもまた……。
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