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大学に入って、離婚してからたった一人で育ててくれた母が亡くなった。
交通事故だった。
子供を女手一つで育てる大変さは傍で見てきた自分が一番知っている。
離婚した時の慰謝料などには手もつけず、朝も、夜も働いて、俺のために学費を貯めて。
いざ、自分に何かあった時はそのお金を遣いなさいと、最後まで俺の事ばかりだった。
・・・母が大好きだった。
立派な人間になって、母に楽をさせてやりたかった。
即死だったと、死んだ母の前で告げられても、受け入れることが出来なくて。
涙もでない。悲しいのかさえわからなかった。
身内もなかったのでひっそりと母が箱の中に収まった。
いつも居る三人からも、きっと連絡は来ているだろう。
だけど連絡を見る気にもなれなかった。
誰にも慰めの言葉なんてかけてほしくなかったから。
小さい箱を抱えて、アパートに帰るとシノがドアの前にいた。
「・・・終わった、か。」
シノはこちらにゆっくり歩いてきて、ポンポン、と俺の頭に触れた。
きっとシノの家族から聞いたのかもしれない。
「・・・おばさん、分かってるよ。リンが誰よりおばさんが大好きで感謝してること。」
俺は何も反応できず、されるがままシノの言葉を聞いていた。
「リンは、一人じゃないから。」
「・・・・・・。」
なにも言葉が出てこなくて、空を仰いだら、雲一つ無い綺麗な水色で。
あぁ、綺麗だなって思ったら。
何だか視界がゆらゆら揺れて見えた。
自分が泣いてるって気づいたのは抱きしめていた箱にポツポツとシミが広がっていて、シノは泣きやむまで俺を見ないように頭を撫でてくれた。
長年一緒にいたシノだから俺はちゃんと泣けたんだと思う。
目つきは悪いけど、こうやってちゃんと優しさをくれて。
悲しい思い出だけど、この日を境に俺はシノの事を意識し始めていた。
########
「もう、リンちゃん注文!きめてよ?私もう決めたからねー。」
いきなり現実に引き戻された。
あぁ、またあのときの事を考えてたのか。
「あー、味噌にする。」
それを聞いたサキちゃんは急いで定員に注文を告げた。
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