第八章 動揺

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「・・・え、」 「俺ね、自分で思ってたより執念深いみたい。」 ミナトはまだ俺を好きでいてくれてる? 俺は、ミナトに、好きって伝えてもいいのかな。 「ねぇ、リン。俺、聞いてもいい?リンの答え。 ・・・ちゃんと貰ってなかったから。」 あぁ、せっかく涙が止まったのに・・・。 視界が滲んでくる。 「・・・き、・・・っ、・・・すき。・・・きだよ。 ミナトの、事が、好き。」 好きだよ。本当は言いたかった。 好きな人に好きって伝えたかった。 ハッキリと言葉にならない想いが、涙になって零れていく。 ミナトがそっと抱き寄せて、ぎゅっと包んでくれる。 「・・・ずっと、こうしたかった。 リンは気付いてないだけで、俺結構ヤバい奴だから。 ずっと、こうしてリンの気持ちを受け止めて、抱きしめたかった。」 ぎゅっと巻き付いた腕は、力がしっかりこもっていて。 でも、とても暖かくて、優しかった。 そのまま、二人で抱き合って、眠った。 夢に落ちていく途中、おでこに柔らかい感触がした。 ミナトの腕の中は気持ちよくて。 深く沈んでいくように夢の中に落ちていく。 ・・・俺は、幸せになってもいいのかな。 母が、亡くなった時、俺は幸せにはなれない人間なんだと思った。 人を幸せにすることも。 女手一つで、慎ましく暮らして、俺のために貯金して。 何一つ、人から咎められるような事をしていない母が、どうしてそんなに呆気なく一生を終えないといけないんだろうって思ってた。 母さん、俺は生きてても何も意味なんかないんだろうって思ってた。 人から必要とされることって凄く大事な事なのかもしれないって今は思うよ。 《人は一人じゃ生きていけない》 いつか、母がそう言った言葉の意味を、この歳になって理解しはじめた。
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