第十章 解放

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自分の名前を探しながら席に着く。 目の前は、新郎新婦の席。 「・・・シノ、結婚したんだって実感するな。」 サクがしみじみと言うもんだから、俺もミナトも吹き出す。 「いやいや、実感なら教会でしたわ。サク遅すぎ。」 ざわざわしていたけれど、綺麗なピアノの旋律が聞こえてきて、 二人が入場する。 間近で見る二人は、今日の主役らしく凄く輝いていた。 乾杯に始まり、披露宴が進むと余興やスピーチの事が頭をよぎって緊張してきた。 スピーチは余興の後。 スマホやデジカメで写真を撮ったり、ビデオ撮影をしたり、周りは賑わっていた。 「リン、大丈夫か?」 「・・・あぁ、大丈夫。」 大丈夫じゃない。 緊張する。人前に出ること自体めちゃくちゃ苦手なんだよ。 「・・・リン、無理するなよ。」 ミナトはいつだって優しい。  サクだって、シノだって。 ふっと表情を緩めて、肩の力を抜いた。 俺だって、せっかく頼んでくれたシノに無理させたって思わせたくないし、 ミナトにも、シノの友人として、スピーチするところをみて欲しいから。 「・・・あ、やっぱり。リンくんよね?今日は来てくれてありがとう。」 後ろから、聞き覚えのある声がした。 「・・・・・・シノの、おばさん?」 最後にあったのはいつだったろう。 母さんの、葬式だったか・・・。 涙さえ流さず、人形のような俺を見て、何も言わず抱きしめてくれた。 「お久しぶりです。本日は、おめでとうございます。」 親戚のおばさんにあったような感覚だ。 「ふふ、リンくんもすっかり大人になっちゃって。 そちらは大学のお友達ね。ありがとう。」 サクもミナトもペコリと頭を下げている。 「・・・よくね、息子から大学時代の話を聞くの。みんな学部は違うけど、よく一緒にいて楽しいんだって。 リンくんの事もずっと気になってた。 ・・・でも、今日会って安心したわ。 来てくれて本当にありがとう。」 きっと、本当に心配してくれていたんだと思う。 昔から変わらないおばさんの笑顔は、シノによく似ていて。 親子だから当たり前なんだろうけど、ちょっと嬉しくなった。
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