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気付いた時には
キングスイートの部屋を出て
1階のホールへ戻る
静かな廊下を歩いていた。
雲の上を歩いているように
まるで床を踏みしめる感触がない。
自分の体にしみついたような
あの濃厚な香りが
いまだに私に
吐き気と頭痛を起こさせる。
「奈々緒」
ふらりと身体が傾いで
壁に手をついた時
耳に馴染んだ声がした。
心配するような
それでいて咎めるような
複雑な色をした声だった。
「どうして……」
どうしてあなたが
ここにいるの?
マダムの部屋に
行こうとしていたの?
秘書も連れず、ひとりで?
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